近年の写真技術の技術進歩は目覚ましく、ストロボを使った写真撮影も年々進化しつつあります。そのひとつが最近よく目にするようになったハイスピードシンクロです。明るい日中にストロボを使いますが、日中シンクロとの違いや原理など簡単に説明します。 ハイスピードシンクロ撮影は難しいと先入観を持っている方も多いでしょうが、実際やってみると簡単です。ハイスピードシンクロをマスターしてプロ級の写真を目指しましょう。
#1 ハイスピードシンクロとは?
図1 通常のストロボ発光
まず、簡単に原理を説明します。現在の一眼レフカメラはほとんどがCMOSという撮像素子の上で前幕と後幕の二枚の幕(フォーカルプレーン)を縦に高速で走らせて露光する仕組みです(図1)。通常のストロボは二つの幕が全開している間に一回だけ発光します。その構造のためにシャッタースピード(以下SS)が速すぎると黒幕が画像に写ってしまい、逆に遅すぎると手ブレを起こしたりします。それを防ぐためにストロボ使用の時のSSはほとんどの一眼レフカメラでは1/60~1/250秒程度に自動的に制限がかかっています。日中シンクロもこの範囲でストロボが発光します。
図2 ハイスピードシンクロ発光
一方、ハイスピードシンクロでは、前幕の下り初めから後幕が下り終わるまでの間に、ストロボを連続的に何回も発光させて露光しますので、黒い幕は写らないのです(図2)。
但し、これにはハイスピードシンクロ(FP発光ともいう)に対応しているカメラとストロボが必要です。なお、FPとはFocal Planeの略ですが、各メーカともハイスピードシンクロを意味するのにこの記号を使用しています。
#2 どんな時にハイスピードシンクロが使えますか?
写真① 逆光での撮影で主題が真っ黒
写真② 日中シンクロ撮影 f22
明るい背景の逆光で撮る場合、写真①のように主題が真っ黒になってしまします。主題を明るく写すには日中シンクロの技術を使えば写真②のように主題と背景が明るく写せます。
写真③ 開放絞り(f2.8)で背景が白飛び
ところが、主題を引き立てるために背景をぼかすために絞りを大きく開けると、写真③のように背景が白飛びしてしまいます。これは前述の通り、最高1/250秒にしか設定できないためです。これが日中シンクロの限界です。
こんな場合、ハイスピードシンクロ対応のカメラとストロボがあれば、背景をぼかした撮り方ができます。SSは1/250以上が自由に使えます。これならば背景のぼかし具合も絞りで自由に調整できますので、思いのままです。ではその作例をいくつか見てみましょう。
写真④ハイスピード撮影 絞り f2.8, SS= 1/2000
背景がいい具合にぼけています。
写真⑤ハイスピード撮影、絞りf11、SS= 1/1250
背景をもう少しはっきりとさせるため絞りを絞りました。SSは1/1250となっています。
ハイスピードシンクロは、日中シンクロと共にポートレートに使うととても効果的です。ポートレートでのハイスピードシンクロの作例を一つ上げましょう。美人モデルを雇う金もなかったので、かわいいフィギュアに登場してもらいました。
写真⑥ 逆光で被写体が暗い
写真⑦ 日中シンクロ f16, SS=1/80
写真⑥は逆光のため被写体が暗くなっている写真です。ここで、ストロボを使って被写体に光を当てたのが写真⑦で、いわゆる日中シンクロ撮影です。背景が少しボケていて、これはこれで決して悪くはありません。しかし少々ゴチャゴチャし過ぎているので、もう少しぼかしたい場合に絞りを開けると、シャッタースピードが1/250以上にはならないため、背景が真っ白に白飛びしてしまうでしょう(先の写真③のような白飛び)。
写真⑧ ハイスピードシンクロf2.8, SS=1/2500
そこでハイスピードシンクロの出番となります。背景をもっとぼかすために絞りを開放にして、シャッタースピードを高くしたため、写真⑧のように背景が意図した通りぼけています。絞りは開放(f2.8、シャッタースピードは 1/2500となりました。背景のボケ具合は、撮影意図や好みの問題ですが、少なくとも日中シンクロでは絶対できないことがハイスピードシンクロではできるところがポイントです。
#3 カメラの設定とコツ解説
ハイスピードシンクロ撮影でのカメラとストロボの設定方法はメーカにより異なります。ここでは ニコンD750とSB600の場合の設定方法を説明します。
まずストロボをカメラに取り付けて電源をONにします。次にカメラ側の設定メニューから<フラッシュ・BKT撮影>、<1/250秒(オートFP)>を選びます(写真⑨)。このオートFPは自動でハイスピードシンクロに切り替わるモードです。光量が充分明るく、設定した絞りでは1/125秒より早いシャッタースピードが必要の場合に、カメラが判断してハイスピードシンクロに自動的に切えてくれます。ストロボのLCD画面には FP と表示されていることを確認します。設定はこれだけですので、とても簡単ですね。
写真⑨ ハイスピードシンクロの設定画面
次にカメラでAモード(絞り優先モード)にして、背景のボカし具合によって絞り(f値)を決めればいいのです。もともと背景をぼかすためにハイスピードシンクロ撮影をしますので、やはり絞りは大きく開いて撮りたいですね。
撮影したらLCD画面で背景のボケ具合を確認しつつ絞りを調整して何枚か撮影しましょう。ここで注意することは、逆光の撮影ですので手前にある暗い被写体にピントがきちんとあっていることを確認することが大切です。3インチ程度の大きさのLCDではピントの確認が難しいので、引き伸ばして確認しましょう。シャッターボタンを半押しして主題にピントを合わせてから構図を決めて撮影するのが基本です。絞りでボケ具合を調整することや、シャッターの半押しでピントを合わせるのは通常の撮影とまったく同じですが、ハイスピードシンクロに気を取られていると、つい確認をし忘れることもあります。
なお、主題だけの明るさ調整はストロボでの光量で調整し、背景も含めた全体の明るさの調整はカメラの露出(EV)で調整します。
#4 まとめ
ハイスピードシンクロを一言でいえば、「明るいところで被写界深度変えずに主題と背景の光をコントロールする」ことですが、撮影方法は思ったより簡単なことが分かったと思います。日中シンクロの撮り方と同じような方法で撮影ができますが、日中シンクロでは絶対できないことができるところに魅力があります。
なお、ハイスピードシンクロ対応ストロボは少々高価ですが、最近、純正ストロボと互換性がある中国製のストロボが数分の一の価格で売り出されています。購入を検討するならカメラとの互換性をよく確かめてからにすることをお勧めします。
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